THz-CUR

THz-CURの模式図と写真

THz-CUR(テラヘルツコヒーレントアンジュレータ放射)とは

光速に近い速度まで加速された電子ビームがアンジュレータと呼ばれる周期磁場を発生させる装置に入射すると、準単色なアンジュレータ放射が発生します。この際、電子ビームの時間幅がアンジュレータ放射の放射波長よりも十分に短い場合にコヒーレントアンジュレータ放射が発生します。

この条件下では、個々の電子から放射されたアンジュレータ放射が同位相で重ね合わされ、電子ビームの時間幅が放射波長よりも十分に長い場合に比べて、電子の個数倍強くなります。電荷量100 pCの電子ビームには6億個もの電子が含まれており、通常のアンジュレータ放射の6億倍も強くなり、レーザーと同様に高い空間・時間コヒーレンスを有する高強度な準単色な光が発生します。

KU-FELでは、光陰極高周波電子銃とバンチ圧縮シケインという装置を用いて、4.6 MeVの運動エネルギーを持つパルス長の短い電子ビームを発生させ、これを全長70cmのアンジュレータ(周期数10、周期長7cm)に入射することで、テラヘルツ領域のコヒーレントアンジュレータ放射、すなわちTHz-CURを発生させています。

アンジュレータの最大K値(磁場の強さを表すパラメータ)は2.8であり、最も長い波長で1.875mm(160 GHz)のTHz-CURを発生させることが出来ます。

発生したTHz放射は電場の形が毎ショット決まった電場を持っており、発生する電場の振動回数(サイクル数)はアンジュレータの周期数できまり、10サイクルです。

ドイツにはさらに大型の加速器を利用したTHz-CUR利用施設 (TELBE) があります。

また、X線自由電子レーザ施設においては、X線発生に使用した後の電子ビームを用いてテラヘルツ放射を発生するためにTHz-CURを利用する計画もあります。

THz-CURの性能

KU-FELのTHz-CUR装置の諸特性については論文にて報告があります (1, 2, 3, 4)。詳細はこれらをご参照ください。下記に概略を示します。

THz-CURの周波数はアンジュレータの磁場強度を変えることにより、0.16~0.6THzの範囲内で変化させることが可能。

THz-CURの最大強度は校正されたTHz焦電検出器(THz10)により測定され、約1μJ@0.16THzであることが分かっています。

最大ピークパワーは~30 kW @0.33 THzです。

THz-CURのスペクトル幅は10%であり、これは10サイクルの放射であることを示しています。

1電子パルス内に含まれる電荷量が大きくなってくると、電子同士の反発力(空間電荷効果)の影響が大きくなり、電子パルスの長さが伸びる現象が確認されています。これが原因で電荷量を増やしてもTHz-CURの強度が増えない飽和現象が生じ、最大強度が制限されています。

THz-CUR強度の電荷量依存性 THz-CURの典型的な周波数スペクトル

ユーザーステーション

現在、KU-FELのTHz-CURにはユーザーステーションがありません。これはTHz-CURで発生するとても長い波長の光を長距離輸送するのが困難であることが大きな要因となっています。

このため、THz-CURのユーザー実験はアンジュレータ近くの光学ブレッドボード上で行う必要があります。

この光学ブレッドボード上には自作の干渉計が設置されており、THz-CURのスペクトルを測定可能です。

進行中の開発研究

東北大学の柏木茂博士との共同研究では、2018年度からTHz-CURの偏光状態制御手法を開発しています。

開発した装置ではワイヤーグリッドを用いた光学系を用いて、直線偏光したTHz-CURを変換し、右回り/左回り円偏光を実現しています。

この手法は容易且つ、偏光の高速切替が可能で、強度の減衰も最小限に抑えられます。(-> check the previous report)

この偏光可変装置を使って作り出した高強度円偏光準単色コヒーレントTHz放射を用いた応用実験にも着手しています。

東京大学の坂上和之博士との共同研究では、2019年度から坂上氏が独自に開発したエネルギー変調空洞付高周波電子銃 (ECC-RF gun) を用いた短パルス電子ビームの発生とTHz-CURの高性能化に取り組んでいます。

ECC-RF gunを用いることで、大電荷条件でも電子ビームのパルス長を短く保つことができ、THz-CURの強度向上が期待されます。

2019年度に実施した共同研究で既にECC-RF gunを用いてTHz-CURの発生に成功しています。

今後は、さらに研究を進め、ECC-RF gunを用いて発生させるTHz-CURの最大強度を明らかにする予定です。