MIR-FEL (中赤外自由電子レーザ)
電子線形加速器とFELの発生
KU-FELでは電子線形加速器がMIR-FELの発生に用いられています。
マクロパルス幅7μs、運動エネルギー8.3MeVの電子ビームが4.5空胴熱陰極高周波電子銃を用いて発生されます。
高周波電子銃から発生した電子ビームはドッグレッグ部を通過し、その際に、上手く加速されなかった低エネルギー成分が除去されます。
そして、長さ3mの進行波加速管により電子ビームのエネルギーが40 MeVまで加速されます。
電子銃や加速管にはクライストロンと呼ばれる大電力高周波増幅装置がそれぞれ一つずつ接続されており、大電力高周波を投入することで電場を誘起して電子の加速を行います。
電子ビームの進行方向や横方向の形状を複数の適切に配置された電磁石を使って成形した後、電子ビームはアンジュレータに入射されます。
アンジュレータに入射した電子ビームからはまず、自発放射光と呼ばれる準単色で弱い光が放出されます。
自発放射光は光共振器と呼ばれる合わせ鏡の中に蓄えられ、後から入ってくる電子ビームとアンジュレータ中で相互作用し、増幅されます。この増幅を100~200回程度繰り返すことで光強度は自発放射光の100万倍程度強くなり、レーザ発振・パワー飽和に至ります。
通常、六硼化ランタン(LaB6)単結晶でできた熱陰極を温めることにより熱電子放出とういう効果により電子を発生させてユーザー利用に用いられています。
このLaB6陰極は外部から紫外レーザを照射することで電子を発生可能な事が古くから知られており、光電効果により電子を放出させる光陰極としても使用することが可能です。
熱陰極モードでの最大電荷量が約55pCなのに比べて、光陰極モードでの最大電荷量は190pCであり、高い電荷量の電子ビームを用いてより強度の高いFELを発生可能となります。
ただ、電子パルス1つ当たりの電荷量は増えるのですが、外部紫外レーザの繰り返し周波数が約30MHzであるため、電子パルスの繰り返し周波数が熱陰極モードの約3GHzから光陰極モードでは約30MHzに下がります。
熱陰極モードでは1バーストあたりの積分光エネルギーが光陰極モードよりも高いですが、一方、1ミクロパルスあたりの光エネルギーは光陰極モードの方が高くなります。
光陰極モードは現在、開発中の運転モードですが、必要に応じてユーザー利用実験でも使用して頂く事が可能です。ただし、実験実施可能時期は限られます。
性能
KU-FELのMIR-FELは波長3.4~26μmをカバーする高強度波長可変超短パルス光源です。ユーザーステーションUS#1にて使用可能な最大強度は波長9μmにおいて1バーストあたりの積分光エネルギーで40mJです。
このMIR-FELは最大強度および波長可変範囲において国内最高性能を有しています。
FELの波長幅は光共振器の長さを少し変えることで調整が可能です。
最大FEL出力はFELの波長幅が最も広い(~4% in FWHM)程度の条件で得られます。
最大出力が得られる条件から1波長程度、光共振器長を短くすることで、FELの波長幅は約1%程度まで狭くすることができますが、この際のFEL出力は最大出力の1/3程度となります。
実験課題に応じて適宜、調整する必要があります。
2019年には熱陰極モードにおいて、常伝導加速器を用いた共振器型自由電子レーザとして最高の引き出し効率(5.5%)を達成しました。(→please check this open access paper)
その後、継続して開発を進め、2020年には光陰極モードにおいて、世界過去最高の引き出し効率(9.4%)を達成しました。(→ please check this open access paper)